閉店アナウンスが流れる前の、あの妙な時間。
「もう帰ろう」と心では思っている。 それでも、足は止まらない。 気がつくと、空いていた一台に、もう座っている。
これは、勝ちたいから座っているのだろうか。 本当にそうだろうか。
実のところ、もう勝ち負けの話ではないことが多い。 むしろ、終わらせる勇気が、ほんの少し足りないのである。
人は、納得して終わりたい生き物である。 「ここまでやった」という感覚がないと、一日を閉じられない。
10万円勝った日は、すぐに帰れる。 逆に、1万円負けただけの日もすぐに帰れる。
しかし、その間の中途半端な収支の日。 「もう少しで何かが起こりそうな気配」が残っている日。 そういう日こそ、最も帰りにくい。
これは、ホールに限った話ではない。 仕事の打ち合わせ、長電話、夜の街、SNS。 人間はいたるところで、終わらせ方を見失う。
ホールという空間は、その傾向を強く引き出すように作られている。 照明、音、気配、空き台のリズム。 すべてが、終わりを少し遅らせる方向に効いている。
それに気づくこと。 それだけで、半歩は引ける。
「自分は今、勝ちたいのか。 それとも、納得して終わりたいだけなのか。」
この一行を、心の中で確認するだけでいい。 答えが後者なら、たいてい、もう座らなくていい日である。
帰り道に、少しだけ夜風が心地よく感じられる。 そういう夜の、ささやかな勝ち方もある。